肖像権侵害とは?社員の集合写真がSNSで炎上した理由

肖像権侵害とは?社員の集合写真がSNSで炎上した理由 社会

何気ない社員の集合写真が炎上

ある中堅メーカー企業の広報担当者が、若手社員の集合研修の様子をPRするためにSNSへ投稿した1枚の写真が、思わぬ形で炎上した。研修施設前で撮影されたスーツ姿の男女5人の写真で、投稿直後は多くの「いいね」がついていたが、2日後から状況が一変。写真に写る個人を特定しようとする動きが加速し、実名や出身大学、SNSアカウントまでもがネット上に拡散する事態になった。

不適切な行為はゼロ、それでも炎上した理由

寄せられていたのは、「あの会社は顔採用だ」「調子に乗ってそう」といった反発的な投稿だった。専門家によれば、こうした炎上は「恵まれているように見える人」「優遇されているように見える人」に対する妬みや嫉妬から生じるケースが少なくないという。集合写真に写っていたのが「仲が良さそうな」「楽しそうな」若手社員だったことが、閲覧者の反感を招いたとみられる。

特定を加速させた「社員証」の存在

写真に社員証を付けたまま写り込んでいたことも、個人特定と拡散のスピードを加速させる要因になったと指摘されている。匿名性の高いSNS上では、一人が特定作業を始めると、他の利用者も「正義感」や「祭り感覚」から便乗しやすく、個人情報の暴露がエスカレートしやすい傾向があるという。

そもそも「肖像権侵害」とは何か

肖像権とは、本人に無断で写真や動画を撮影・公開されない権利を指し、侵害した場合は民法上の不法行為として損害賠償請求の対象になり得るとされる。肖像権を構成する要素には「プライバシー権」と「パブリシティ権」があり、プライバシー権は、本人が公開されたくない私生活上の情報を勝手に公開されない権利を指す。

「デジタルタトゥー」という取り返しのつかないリスク

一度ネット上で特定・拡散された個人情報は、投稿を削除しても完全に消し去ることが難しく、「デジタルタトゥー」と呼ばれる。刺青のように消えずに残り続けることから、こうした呼び名がつけられているとされる。炎上が過熱し、顔や実名、住所などが特定されてしまうと、当人の生活に長期にわたって影響を及ぼしかねない、いわば「やり過ぎた制裁」になってしまうケースも少なくないという。

被害に遭った場合の相談窓口

誹謗中傷や個人情報の拡散被害に遭った場合、総務省が案内する「違法・有害情報相談センター」など、無料で相談できる公的窓口が用意されている。専門知識を持つ相談員が、投稿の削除方法や発信者情報の開示請求の進め方についてアドバイスを行っており、一人で抱え込まずに専門機関へ相談することが推奨されている。

投稿企業にも「二次被害」の法的責任が生じ得る

今回のように不適切行為が見られない場合でも企業のSNSが炎上してしまった場合、投稿企業側にも一定の責任が生じ得る。今回のケースでは、写っていた社員の一部が精神的な負担から個人のSNSアカウントを削除する事態にまで発展した。企業の広報担当者にとって、投稿する写真がどのような形で拡散し得るかを事前に想像しておくことの重要性を、今回の一件は改めて示している。

企業SNS運用における事前チェックの重要性

今回のようなリスクを避けるため、企業の広報担当者には、投稿前に写真や動画に写り込む情報を細かく確認する姿勢が求められる。社員証やネームプレートなど、個人が特定されやすい要素が写っていないか、複数人でのダブルチェック体制を整えている企業も増えているという。

SNS運用ガイドラインの整備や、炎上発生時の対応フローをあらかじめ準備しておくことも、被害を最小限に抑えるための重要な備えになる。

「特定作業」に参加することのリスク

今回のような炎上に便乗して個人を特定しようとする行為自体にも、法的なリスクが伴う。誤った情報を拡散した場合、名誉毀損やプライバシー侵害の加害者として、逆に法的責任を問われる可能性もある。

正義感からの行動のつもりでも、結果的に無関係な人物を巻き込んでしまう「誤特定」のリスクは常につきまとう。安易な拡散には慎重な姿勢が求められる。

被害に遭った社員への配慮

今回のように精神的な負担を負った社員に対しては、企業側がカウンセリングの機会を提供したり、必要に応じて法的措置のサポートを行ったりすることも重要だ。従業員を「広報の素材」として扱うのではなく、一人の個人として尊重する姿勢が、企業に強く求められている。

SNS時代における「妬み」の構造

専門家が指摘するように、今回の炎上の根底には、恵まれて見える他者への嫉妬心があるとされる。こうした感情は今に始まったものではないが、SNSによって誰もが匿名で発言できる環境が整ったことで、負の感情が増幅されやすくなっている面は否めない。

この構造を理解しておくことは、企業だけでなく、個人がSNSで発信する際にも役立つ視点だといえる。

法整備の現状と課題

プロバイダ責任制限法の改正など、誹謗中傷対策のための法整備は近年進んできているが、実際に発信者を特定し法的措置を取るまでには、時間と費用がかかるのが実情だ。被害者が泣き寝入りせざるを得ないケースも依然として多く、より迅速な救済を可能にする制度改善が求められている。

今回のような事例が繰り返されないよう、企業・個人・プラットフォーム事業者それぞれが対策を講じていく必要がありそうだ。

プラットフォーム事業者に求められる対応

SNSプラットフォーム側にも、誹謗中傷や個人情報の拡散を防ぐための取り組みが求められている。悪質な投稿の通報機能の強化や、AIを活用した不適切投稿の自動検知など、各社が対策を進めているが、拡散のスピードに追いついていないのが実情だ。

今回のような事例を教訓に、投稿から拡散までのプロセスにおいて、より実効性のある歯止めの仕組みが求められている。

今回の一件が投げかける教訓

何気ない1枚の写真が、思いもよらない形で個人の生活を脅かす事態に発展した今回のケースは、SNS時代における情報発信の難しさを改めて浮き彫りにした。発信する側も、受け取る側も、一呼吸置いて考える姿勢が、こうした悲劇を防ぐ第一歩になるはずだ。誰もが加害者にも被害者にもなり得るSNS時代だからこそ、日頃からの心構えが大切になる。

元記事はこちら:「1枚の社員の集合写真」がSNS投稿で大炎上(ダイヤモンド・オンライン)

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