塩野義製薬は、2027年度から定年を事実上廃止する方針を固めた。新制度では定年を65歳まで引き上げた上で、65歳以降も希望すれば正社員としてそれまでの給与水準のまま、年齢の制限なく働き続けることができるという。
この制度の背景には「職務等級制度」という人事の仕組みがある。この記事では職務等級制度とは何かを整理しつつ、塩野義製薬の新制度の中身を解説する。元記事はこちら。
塩野義製薬の新制度の内容
現在の塩野義製薬は60歳定年制で、定年後は65歳まで給与水準を下げて再雇用する仕組みを取ってきた。新制度では、本人の意思や業務の成果を考慮した上で、原則1年ごとに継続の判断が行われる予定だが、70歳、80歳を過ぎても給与が下がることなく働き続けることが可能になる。
働き方や雇用に詳しい千葉商科大学基盤教育機構の常見陽平教授は「これは単純に『お給料をたくさん貰いながら、いくつになっても働ける』という話ではありません。人事の仕組みを変えにいっているのです」と指摘している。
職務等級制度とは何か
職務等級制度とは、年齢や勤続年数といった属性にかかわらず、担っている職務や役割の大きさ、成果に応じて処遇を決める人事制度のことだ。従来の日本企業に多く見られた「年功的な人事制度」とは異なる考え方に基づいている。
常見教授は「年功的に積み重なっていて、成果を出していようがいまいが、60歳で課長だったら月給70万円です、ではなく、同じ年齢でも、担っている職務・役割の大きさや評価によって処遇が異なる、という人事制度なのです」と説明する。塩野義製薬はこの職務等級制度を軸に据えているからこそ、65歳到達を理由に一律で賃金を引き下げる必要がなくなったというわけだ。
年功的な人事制度との違い
従来型の年功的な人事制度では、勤続年数や年齢が上がるにつれて自動的に役職や給与が上がっていく仕組みが一般的だった。一方で、定年後の再雇用では賃金が定年前の5〜7割程度に下がるケースが多く、これは年齢を理由とした一律の処遇変更という側面が強かった。
職務等級制度のもとでは、処遇はあくまで「その人が担っている職務の大きさ」によって決まるため、年齢に紐づいた一律の賃金引き下げという発想自体が制度上なじまなくなる。これが、今回の定年廃止を可能にした構造的な理由といえる。
似た概念との違い
職務等級制度と混同されやすい言葉に「ジョブ型雇用」がある。ジョブ型雇用は、採用の段階から職務内容を明確に定義し、その職務に基づいて処遇を決める雇用形態全体を指す、より広い概念だ。職務等級制度は、その中で処遇の格付けを行う仕組みの一部と位置づけられる。
これに対し、日本企業で伝統的に多く見られた「メンバーシップ型雇用」では、職務を限定せずに人材を採用し、入社後にジョブローテーションを重ねながら育成していく形が一般的だった。塩野義製薬のような制度改革は、メンバーシップ型から職務・役割ベースの制度への移行という、より大きな潮流の一環として捉えられる。
他社の定年廃止事例
定年制度そのものを廃止する動きは、塩野義製薬が初めてではない。ファスナー大手のYKKグループは2021年4月、国内事業会社で65歳を上限とする定年制を廃止した。2013年ごろから段階的に定年延長を進め、20年以上の準備期間を経ての決断だったとされる。
YKKは廃止の理由について、経営理念に基づく「年齢、性別、学歴、国籍にとらわれない真に公正な人事を目指す」という考え方に反するためと説明している。制度開始から数年が経過し、65歳以上でも継続勤務を選ぶ社員と退職を選ぶ社員がおおむね半々の割合になっているという。
背景にある人手不足と高齢者活用
常見教授は、今回の改革の背景に「日本社会全体の人手不足や高齢者活用の必要性」があることも指摘している。少子高齢化が進む中、意欲と能力のある高齢者に長く働いてもらうことは、多くの企業にとって共通の課題になりつつある。
ただし、常見教授が強調するように、単なる高齢者活用の話として捉えるだけでは、今回の改革の本質を見誤ることになる。年齢に依存しない処遇の仕組みそのものを整備しない限り、実効性のある定年廃止は難しいというのが、専門家の見立てだ。
ボーナスや退職一時金廃止という別の動き
塩野義製薬の事例と並んで、近年は「ボーナスや退職一時金の廃止」に踏み切る企業の動きも報じられている。これも根底にあるのは、年齢や勤続年数に応じて自動的に積み上がる報酬の仕組みから、成果や職務に応じた報酬体系への転換という、共通する潮流だ。
退職一時金は、長年にわたる年功的な処遇の集大成として支給される性質が強く、職務等級制度のような成果ベースの処遇とは前提が異なる。こうした制度を見直す企業が増えれば、日本企業の給与体系全体のあり方が大きく変わっていく可能性がある。
従業員側が意識すべきポイント
職務等級制度への移行が進む企業で働く従業員にとっては、これまでのように年齢や勤続年数を重ねるだけでは、処遇の向上が期待しにくくなる面がある。担っている職務の価値をどう高めるか、成果をどう示すかが、より直接的に処遇に反映されるようになるためだ。
一方で、年齢による一律の制限がなくなることは、意欲と実力のある人にとっては長く活躍できるチャンスの拡大でもある。制度の変化を前向きに捉え、自身のキャリアをどう設計していくかが、今後ますます重要になりそうだ。
今後の焦点
常見教授は「他社に波及する可能性もあるでしょう」と述べており、塩野義製薬の今回の制度改革が、他の日本企業にとってのモデルケースになる可能性もある。今後、同様の職務等級制度を導入する企業が増えるかどうかが注目される。
従業員側にとっては、年齢による一律の制限がなくなることで「何歳になっても納得感のある活躍ができる制度」になり得る一方、成果や職務内容に応じた処遇が徹底されることの意味を、働く側もあらためて理解しておく必要がありそうだ。


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