飲料メーカー各社が、逆風の続く自動販売機事業の再構築に乗り出している。キリンビバレッジはエンターテインメント性を加えた自販機を展開し、サントリーはノンアルコール飲料専用の自販機を試験設置。売上高の9割が自販機チャネルのダイドードリンコはブランドロゴを一新するなど、各社が新たな価値創出に取り組んでいる。
この動きをきっかけに「なぜ自販機に逆風が吹いているのか」を調べる人が増えている。この記事では業界の現状とあわせて、各社の取り組みを紹介する。元記事はこちら。
自販機はなぜ「逆風」なのか
自販機事業を取り巻く環境は厳しさを増している。消費者の節約志向に加え、飲料を補充する人手の不足が深刻化しており、原材料高騰による値上げも需要の伸び悩みに拍車をかけている。
日本自動販売システム機械工業会(JVMA)によると、飲料などの自販機の2025年末の稼働台数は約388万台で、10年前と比べて約2割減少した。かつて「置くだけでもうかる」と言われた自販機ビジネスは、今や大きな転換点を迎えている。
日本が「自販機大国」と呼ばれてきた理由
日本では1962年頃から自動販売機の本格的な普及が始まり、その後急速に台数を増やしてきた。絶対数では自販機大国アメリカに及ばないものの、人口や国土面積を勘案した普及率では、日本が世界一とされてきた。
治安の良さや、コンビニに並ぶほどの利便性を求める国民性、狭い路地でも設置できる省スペース性など、複数の要因が重なり、日本独自の「自販機文化」を形成してきたとされる。
コンビニコーヒーとの競合
自販機減少の要因として見逃せないのが、コンビニエンスストアの台頭だ。店頭で提供される淹れ立てのドリップコーヒーが人気を集め、缶コーヒーを中心とした自販機の需要を奪う形になっている。
コンビニは飲料だけでなく、公共料金の支払いやATM、宅配便の受け取りなど多機能な拠点として進化してきた。単一の機能しか持たない自販機は、こうした多機能化の流れの中で相対的に存在感を弱めてきた側面がある。
電子マネー・キャッシュレス化の影響
自販機自体も電子マネーやQRコード決済への対応を進めてきたが、初期投資や維持コストの負担は小さくない。特に地方や利用者の少ない立地では、キャッシュレス対応のための追加投資が採算に見合わないケースもあるとされる。
一方で、キャッシュレス化に対応した自販機は、購買データの収集や分析にも活用でき、各社のマーケティング戦略に生かされ始めている。単なる販売機から、データを生み出す接点としての価値も模索されている。
災害時に果たす自販機の役割
自販機は平時の販売機能だけでなく、災害時の飲料提供拠点としての役割も担ってきた。大規模災害の発生時に、遠隔操作で無償提供に切り替えられる「災害対応型自販機」の設置が、自治体や企業の間で進められている。
台数そのものは減少傾向にあるものの、こうした社会インフラとしての価値は、自販機事業を単純な収益性だけで語れない要素として、各社の事業継続の判断にも影響を与えているとみられる。
各社の新しい取り組み
キリンビバレッジは、子ども向け健康飲料「つよいぞ!ムテキッズ」と看板商品「生茶」をセット販売する自販機を都内のスポーツ施設などに設置した。購入後に専用ハンドルを回すと、イラストが描かれたおもちゃが出てくる、カプセルトイのような仕組みを取り入れている。
サントリーは、ノンアルコール飲料専用の自販機を高輪ゲートウェイシティ(東京都港区)に期間限定で試験設置した。同社がノンアル飲料の自販機を公共空間に設けるのは初めての試みだという。
ダイドードリンコのブランド刷新
売上高の9割を自販機チャネルが占めるダイドードリンコは、創業以来初となる商品ブランドの全面刷新に踏み切った。「商品ごとの訴求から商品ブランド総体で価値を伝える戦略に転換する」としており、全国の自販機ネットワークを生かし、原料メーカーや消費者、行政などと共創して開発した商品を増やす方針だ。
単に商品を売るだけでなく、自販機というチャネルそのものの価値を高めようとする姿勢が、各社に共通する取り組みの方向性といえる。
環境配慮への取り組み
自販機は電力を消費する点でも課題視されてきたが、技術革新によって省エネ化も進んでいる。JVMAによると、2025年度の缶・ボトル飲料自販機の1台当たりの年間電力消費量は、1991年度の3割以下にまで削減されている。
マイコンを内蔵し、早めに売れそうな商品のみを冷やす「ゾーンクーリング」といった技術がその背景にある。アサヒ飲料は、周辺の大気を吸い込んで商品を冷やしたり温めたりする仕組みを活用し、二酸化炭素(CO2)吸収材を搭載した「CO2を食べる自販機」を2025年末時点で約5000台設置しており、吸収したCO2はコンクリートなどの工業原料として再利用されている。
事業売却・再編の動き
厳しい経営環境を受け、自販機事業からの撤退や再編を選ぶ企業も出てきている。ポッカサッポロフード&ビバレッジは10月に自販機事業をライフドリンクカンパニーに売却する予定だ。原材料高騰による値上げや消費者の節約志向で需要が伸び悩み、保全コストの増加や人材不足に直面している点を理由に挙げている。
伊藤園も5月に自販機事業を子会社に集約し、ダイドーグループホールディングスも不採算の自販機の引き上げを強化するなど、各社が事業の選別を進めている。
自販機の今後
自販機事業を取り巻く環境は厳しさを増しているが、各社は単なる「モノを売る場」から「消費者との接点」へと自販機の位置づけを再定義しようとしている。エンターテインメント性の付加や、環境配慮技術の搭載、ブランド価値の再構築など、アプローチはさまざまだ。
人手不足や節約志向といった構造的な逆風が続く中、各社の工夫が実を結び、自販機という日本独自の文化が今後も生き残っていけるのか、業界の動向が注目される。
自販機は、深夜や早朝など人手を介さずに商品を購入できる利便性や、災害時のインフラとしての価値など、単純な売上高だけでは測れない役割を担ってきた存在でもある。台数の減少がそのまま「衰退」を意味するのか、それとも「量から質への転換」なのか、今後の推移を見守る必要がありそうだ。
訪日外国人観光客にとっても、豊富な品ぞろえと24時間稼働する日本の自販機は、しばしば驚きとともに紹介される日本独自の風景でもある。海外からの評価も含め、自販機文化がどのような形で次の時代に受け継がれていくのか注目したい。


コメント