味の素の公式X「味の素パーク」が投稿した、顆粒調味料「ほんだし」を使ったレシピ画像で、商品ラベルや文字がぐにゃりと崩れているのが見つかり、AI使用を疑う指摘がXで相次いだ。同社は謝罪したものの、なお批判は収まっていない。
このニュースをきっかけに「なぜAIを使った広告は炎上しやすいのか」を調べる人が増えている。この記事では今回の経緯とあわせて、炎上の本質的な要因を整理する。元記事はこちら。
何が問題視されたのか
8月14日、「味の素パーク」公式Xは「ほんだし」を使ったレシピを画像付きで紹介した。しかし画像内の商品ラベルや文字の一部が不自然に崩れており、Xでは「自社製品なら写真を撮ればいい」「崩れたまま公開して何も思わなかったのか」といった批判が相次いだ。
これを受け同アカウントは16日、実写写真の明るさや背景をAIで変更した結果だと説明し、確認不足を謝罪、再発防止に努めるとした。しかしその後もバッシングは収まっていないという。
私たちはすでに「AI加工」と暮らしている
生成AIに批判的な声が目立つ現在、企業広告はクオリティーより先に「なぜAIを使ったのか」が問われやすい状況にある。しかし実際には、私たちが日常的に手にするスマホ写真の多くも、ズームや夜景撮影の際に複数画像を自動合成し、AIによる補正が加えられている。
利用者はそれを意識しないまま「補正された画像」を日常として受け入れているのが実情だ。そう考えれば、今回の画像補正も、こうした技術の延長線上に過ぎないという見方もできる。
なぜここまで激しく炎上したのか
問題は「AIを使ったこと」そのものではなく、「自社の商品や顧客に対する敬意の欠如」が透けて見えたことにあると指摘されている。パッケージやロゴは商品の「顔」であり、そこが崩れた画像を平然と公開してしまえば、消費者には「自社商品を大切にしていない」「雑に扱っている」という印象を与えてしまう。
料理や商品の魅力よりも「AIっぽい違和感」が先に立ってしまえば、広告効果が落ちるだけでなく、長年築いてきたブランドの信用そのものを損なってしまう。
企業広告における生成AI活用の広がり
近年、企業の広告制作現場では、生成AIを活用したコンテンツ制作が急速に広がっている。背景写真の差し替えや、モデルのポーズ調整、多言語版のバリエーション作成など、従来は多くの時間とコストを要していた作業を効率化できる点が、企業にとって大きな魅力となっている。
一方で、こうした効率化の裏側で、細部のチェックが疎かになりやすいという新たなリスクも指摘されている。今回の味の素のケースも、こうした効率化と品質管理のバランスが崩れた典型例といえる。
味の素とはどんな企業か
味の素は、うま味調味料「味の素」や、和風だしの素「ほんだし」など、日本の食卓に欠かせない調味料を数多く手がける大手食品メーカーだ。100年以上の歴史を持ち、グローバルに事業を展開する日本を代表する企業の一つでもある。
「ほんだし」は同社の看板商品の一つで、多くの家庭で日常的に使われてきた馴染み深いブランドだ。それだけに、そのラベルが崩れた画像が公開されたことへの消費者の落胆は大きかったとみられる。
過去の類似事例:サクラクレパスの炎上
企業のAI活用を巡る炎上は、味の素が初めてではない。文具メーカーのサクラクレパスは、海外の漫画イベントで展示した販促物について、企業ロゴの表記が同社の表示規定に反していたことや、商品イラストが実際のデザインと相違していたことが判明し、謝罪と撤去に追い込まれた。
このイベントには漫画ファンやプロのイラストレーターも多く来場しており、「本来クリエイターの味方であるはずの」文具メーカーが生成AIを使用したとみられたことに、強い怒りの声が上がった経緯がある。
「自社商品への愛のなさ」という本質的な批判
画材や料理といった「人の手による創造」を支えるブランドにおいて、自社製品や制作プロセスを雑に扱う姿勢は、ユーザーの創作意欲やファン心理へのリスペクトの欠如と受け取られやすい。これは味の素のケースにも共通する構造だ。
調味料という毎日の食卓に関わる商品を扱う企業が、その商品のラベルすら正しく表示できていない画像を公開したことは、消費者にとって「自社製品への愛のなさ」の表れとして受け止められた。
企業に求められるチェック体制
今回の件から企業が学ぶべきは、「AIを全面禁止にするか否か」という極論ではないと専門家は指摘する。商品名やラベルといったブランドの根幹をなす意匠については、勝手に変更させないプロンプトの設計や、生成後の厳重なチェック体制が不可欠だ。
その確認には、単なる画像制作者だけでなく、ブランドの価値を背負う担当者の介在が欠かせないとされる。効率化を追求するあまり、こうした確認プロセスを省略してしまうことが、今回のような炎上の温床になっている。
SNS時代の炎上拡散スピード
今回のような画像の不自然さは、かつてであれば一部の気づいた消費者の間で話題になる程度だったかもしれない。しかし現在は、スクリーンショットとともにXで指摘が投稿されると、瞬時に拡散し、多くのメディアが後追いで報じる流れが定着している。
企業にとっては、わずかな確認不足が短時間で全国的な批判につながりかねない環境になっており、広告制作におけるチェック体制の重要性は、以前にも増して高まっているといえる。
他業界でも相次ぐAI活用の是非を巡る議論
広告業界だけでなく、出版や音楽、映像制作など、さまざまな業界で生成AIの活用を巡る議論が広がっている。効率化のメリットを享受したい企業側と、人の手による創作物への敬意を求めるクリエイターや消費者側との間で、線引きを巡る緊張関係が続いている。
今回の味の素の事例も、こうしたより大きな社会的議論の一部として位置づけることができる。単発の炎上事件としてではなく、AI時代における企業とクリエイター、消費者の関係性を問い直す契機として捉える見方もある。
AI時代に問われる「手触り」
境界線は「AIか、非AIか」ではなく、商品にとってゆずれない価値と、それを選ぶ消費者への敬意を守れているかどうかにある。どれほどAIで作業を効率化できたとしても、自社の商品と、その先にいる人々へ向ける眼差しまで手放してはならない。
生成AIの活用が今後さらに広がる中で、企業がどこまでAIに任せ、どこで人の目によるチェックを残すのか。その線引きのあり方が、ブランドの信頼を左右する重要な経営課題になりつつある。
味の素が今後どのような再発防止策を打ち出すのか、そして消費者の信頼をどう取り戻していくのか。今回の一件は、多くの企業にとって他人事ではない教訓を残した。


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