厚生労働省が公表した2025年の国民生活基礎調査で、若年層の健康状態が悪化傾向にあることが明らかになった。高齢層で「健康上の問題で日常生活に影響がある」と回答した割合が改善する一方、若年層では悪化が続いており、通院理由として最も多いのが「うつ病」などの精神疾患だという。
このニュースをきっかけに「なぜ若者のうつ病が増えているのか」を調べる人が増えている。この記事では調査結果の内容とあわせて、背景にある要因を整理する。元記事はこちら。
高齢層と若年層で対照的な結果
国民生活基礎調査は、健康や介護分野を含む3年に1度の大規模調査だ。今回公表された2025年の結果によると、65〜84歳の高齢層では男女とも「健康上の問題で日常生活に影響がある」と回答した割合が低下し、改善傾向にあった。
一方、若年層では男女とも改善がみられない。特に25〜44歳の男女では、この割合が上昇(悪化)していることが明らかになった。健康寿命の延伸という観点からは、高齢層の改善は喜ばしい一方、若年層の悪化は新たな課題として浮かび上がっている。
25年間の推移で見える変化
2001年の調査結果を基準値(1.0)とした場合の推移を確認すると、6〜14歳と65〜84歳では低下(改善)している一方、25〜44歳の男女では上昇(悪化)していることが分かる。15〜24歳についても、かつては低下傾向にあったが、2019年以降は上昇に転じている。
特に25〜34歳では男女ともに上昇傾向が顕著で、若年層と高齢層とで健康状態の推移が大きく異なる、対照的な構図が浮き彫りになっている。
通院理由で最も多い「うつ病」
調査では、若年層の通院割合そのものが上昇していることも分かっており、その中で生活への影響が最も大きい疾患として「うつ病」などが挙げられている。身体的な疾患よりも、精神的な不調が若年層の生活の質を大きく左右している実態がうかがえる。
これは高齢層で目立つ身体機能の低下による生活影響とは、性質の異なる課題だといえる。
国民生活基礎調査とはどんな調査か
国民生活基礎調査は、厚生労働省が実施する統計調査で、保健、医療、福祉、年金、所得など、国民生活の基礎的な事項を幅広く把握することを目的としている。毎年実施される簡易調査と、3年に1度実施される大規模調査があり、今回の結果は大規模調査によるものだ。
健康分野の設問では「健康上の問題で日常生活に影響があるか」を尋ねる項目があり、この回答割合の推移が、国が算出する「健康寿命」の重要な基礎データとして活用されている。今回の調査は、2025年の国勢調査の年にも実施された節目の調査でもある。
諸外国の若年層メンタルヘルス対策
若年層のメンタルヘルス悪化は、日本に限った現象ではない。アメリカでは公衆衛生当局のトップが、SNSの多用は若者にとって「重大なリスク」だと警鐘を鳴らし、イギリスでも10代のうつや不安の増加とSNS利用の相関関係を示すデータが公表されている。
こうした状況を受け、海外ではSNSの利用年齢制限や、学校でのスマートフォン利用を制限する動きも広がりつつある。日本国内でも、こうした海外の動向を参考にした対策の議論が今後進む可能性がある。
早期受診の重要性
うつ病は早期に適切な治療を受けることで、回復や社会復帰の可能性が高まるとされる。しかし、精神的な不調を「甘え」や「気の持ちよう」と捉えてしまい、受診が遅れるケースも依然として少なくない。
近年は、学校や職場にスクールカウンセラーや産業医を配置する動きが広がるなど、相談しやすい環境づくりが進められている。若年層が気軽に相談できる窓口の存在を知っておくことも、早期発見・早期治療につながる重要な備えといえる。
なぜ若年層でうつ病が増えているのか
専門家の間では、SNSの利用時間とメンタルヘルスの不調に相関関係があるとの指摘が繰り返されてきた。海外の調査では、SNSを1日平均3時間以上利用する若者は、うつ病のリスクが倍増するとの報告もある。
10代から20代の若者は、脳がまだ発達段階にあり、アイデンティティーや価値観が形成される時期でもある。この時期は社会的な圧力や仲間との比較に特に影響を受けやすいとされ、SNSを通じた常時的な比較が、慢性的なストレスの一因になっているとみられる。
SNS以外の社会的要因
うつ病の増加要因は、SNSだけにとどまらない。選択肢が多様化した現代社会では、常に他者と比較し自己評価を行う機会が増え、失敗への恐れや将来への不安が蓄積しやすい環境にあるとの指摘もある。
雇用の不安定化や物価上昇による経済的な不安、将来の年金や社会保障制度への懸念なども、若年層特有のストレス要因として挙げられる。複合的な要因が重なり合って、若年層のメンタルヘルスに影響を及ぼしていると考えられる。
健康寿命という指標の重要性
今回の調査結果は、国の健康寿命の計算にも使われる重要なデータだ。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を指す指標であり、単なる平均寿命とは異なる。
これまで健康寿命の延伸というと高齢期の健康課題が中心に語られてきたが、今回の結果は、若年期の健康課題にも同様に注視する必要性を浮き彫りにした。
通院割合の上昇が示すこと
若年層の通院割合の上昇は、必ずしも悪いことばかりではない側面もある。メンタルヘルスに関する社会的な理解が広がり、以前よりも精神科や心療内科を受診しやすい環境が整ってきたことも、通院割合の上昇に寄与している可能性がある。
ただし、通院してもなお生活への影響が大きいと回答する人が多いという事実は、早期発見や治療環境の整備だけでは十分に対応しきれていない実態を示しているともいえる。
今後求められる対策
厚生労働省の担当者は「人口の多い団塊世代が高齢化したこと」などを高齢層の改善要因として挙げる一方、若年層の悪化については、今後さらに詳しい分析が必要だとしている。
健康寿命の延伸を目指す上では、高齢期だけでなく若年期のメンタルヘルス対策も同時に強化していく必要がある。学校や職場でのメンタルヘルス教育の充実、SNSとの適切な付き合い方の普及など、多角的な取り組みが今後ますます求められそうだ。
今回の調査結果は、これまで「高齢化社会の健康課題」として語られがちだった議論の枠組みを、若年層にも広げる必要性を示すデータとなった。次世代を担う若年層の健康状態が悪化し続ければ、将来的な社会保障や労働力にも長期的な影響を及ぼしかねない。
個人の努力だけに頼るのではなく、社会全体で若年層のメンタルヘルスを支える仕組みづくりが、今後の重要な政策課題として位置づけられていく必要がありそうだ。


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