仙台市青葉区に出店した麻辣湯(マーラータン)チェーンの新店舗が、8月17日のプレオープンの際、開店祝いの花に無断で著名人の名前を使用したとして謝罪する事態になった。花には鳩山由紀夫元首相と、仙台出身のプロフィギュアスケーター・羽生結弦さんの名前が記されていた。
この一件をきっかけに「パブリシティ権」という言葉を調べる人が増えている。この記事では権利の内容とあわせて、今回の経緯を整理する。元記事はこちら。
開店祝いの花を巡る経緯
世界最大級の麻辣湯チェーンを展開する中国・上海の「楊国福グループ」のフランチャイズ店「楊国福麻辣湯仙台駅前店」が、プレオープンの際に開店祝いの花を店舗前に設置した。その花には、鳩山由紀夫元首相や羽生結弦さんの名前が本人の許可なく記されていた。
楊国福グループは店舗のXアカウントを通じて「ご本人の許可なく第三者の氏名を記した祝い花を店舗前に設置していたことが判明いたしました。関係者の名誉を傷つけ、ご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます」と謝罪。同店はその後、臨時休業を発表した。
パブリシティ権とは何か
パブリシティ権とは、著名人の氏名や肖像が持つ顧客を引きつける経済的な価値を、本人が独占的に支配できる権利のことだ。氏名や肖像だけでなく、サイン、声、芸名など、個人を識別できる情報全般が保護の対象になるとされる。
この権利が認められるのは、社会的な知名度を獲得し、その氏名や肖像が「顧客吸引力」を持つに至った著名人に限られる。一般人の氏名を無断で使用した場合とは、法的な位置づけが異なる点も特徴だ。
無断使用の法的責任
パブリシティ権の侵害が認められると、不法行為として損害賠償責任が生じる可能性がある。侵害が認定されれば、使用の差し止め請求や、多額の賠償金の支払いを求められるリスクもある。
今回のケースでは、著名人の名前を「開店祝い」という好意的な文脈で使用しているが、本人の許可を得ていない以上、パブリシティ権の侵害にあたる可能性が指摘されている。好意的な使い方であっても、無断であること自体が問題になりうる点は、多くの人にとって意外に感じられるかもしれない。
パブリシティ権と肖像権の違い
パブリシティ権とよく混同される権利に「肖像権」がある。肖像権は、自分の容姿を無断で撮影・公表されない権利で、主に人格的な利益を守るための権利とされる。一方パブリシティ権は、著名人の氏名や肖像が持つ経済的な価値、いわば「集客力」そのものを保護する権利という違いがある。
今回のように氏名だけが無断で使われたケースでも、その氏名に顧客を引きつける力があると認められれば、パブリシティ権の侵害として扱われうる。単に「顔写真を使ったかどうか」だけが問題になるわけではない点は、押さえておきたいポイントだ。
過去のパブリシティ権を巡る有名な判例
パブリシティ権については、芸能人の氏名や写真を無断でグッズに使用した事例などで、これまで複数の裁判が行われてきた。最高裁判所は、著名人の氏名や肖像を専ら顧客誘引のために利用する行為について、パブリシティ権の侵害にあたりうるとの判断枠組みを示している。
一方で、報道や評論など正当な目的での氏名・肖像の使用は、直ちに権利侵害とはならないとされる。今回のケースは、集客目的の企業活動における使用であるため、こうした過去の判例に照らしても問題視されやすい事例だったといえる。
麻辣湯とはどんな料理か
麻辣湯は、ホワジャオなどのしびれる辛さ(麻)とトウガラシなどのヒリヒリする辛さ(辣)が特徴のスープ(湯)料理で、麺には春雨が使われることが多い。専門店ではショーケースから野菜、きのこ、肉、練り物などの具材を自分で選ぶスタイルが一般的だ。
令和6年頃から日本国内で店舗数が急増し、特に若い女性を中心にブームとなっている中国発の食文化だ。今回の店舗も、こうした麻辣湯人気の拡大を受けた新規出店の一つだった。
楊国福グループとはどんな企業か
楊国福グループは、中国・上海を拠点とする麻辣湯チェーンで、世界最大級の規模を誇るとされる。フランチャイズ展開によって世界各国に店舗を広げており、日本国内でも近年、出店が相次いでいる。
今回の店舗を運営する会社は東京都渋谷区に所在し、産経新聞の取材に対しては「社長が仙台に行っているので分からない」と回答するにとどまっている。詳しい経緯の解明はこれからの部分も残っている。
なぜ羽生結弦さんの名前が使われたのか
羽生結弦さんは仙台市出身のプロフィギュアスケーターで、地元・仙台では特に象徴的な存在として知られている。地域に根ざした著名人の名前を開店祝いに用いることで、店の話題性や地元とのつながりを演出しようとした可能性が考えられる。
一方で、鳩山由紀夫元首相の名前が使われた背景については、明確な説明がなされておらず、なぜ選ばれたのか詳細は分かっていない。
開店祝いの花を巡る商習慣
日本では開店や開業の際、取引先や著名人から届いた祝い花を店頭に並べる慣習が広く見られる。実際に本人から贈られた花であれば問題はないが、今回のように無断で著名人の名前を記した花を設置する行為は、この慣習を悪用した形といえる。
話題性を狙って著名人の名前を利用する行為は、SNS時代においてすぐに拡散され、企業の信用問題に直結するリスクが高いことが、今回のケースからも改めて浮き彫りになった。
今後の対応と世論の反応
店舗のXアカウントは「本部の指導のもと、二度とこのような事態が発生しないよう再発防止と改善に誠心誠意努めてまいります」としており、今後の運営体制の見直しが求められる。
ネット上では「なぜこんなことをしたのか理解できない」「話題作りのつもりだったのでは」といった声が上がっており、ブランドイメージの回復には時間がかかりそうだ。今回の一件は、著名人の名前を扱う際の慎重さが、企業にとっていかに重要かを改めて示す出来事になった。
特に近年は、新規出店のタイミングでSNSでの話題作りを狙う店舗が増えている。目立つための工夫が行き過ぎると、今回のように法的なリスクを伴う炎上騒動につながりかねない。マーケティング手法としての一線をどこに引くかは、飲食業界に限らず多くの企業にとって共通の課題といえる。
海外発ブランドが日本進出時に注意すべき点
今回のように海外資本のフランチャイズチェーンが日本に進出する際には、日本国内特有の法律や商慣習への理解が不可欠になる。パブリシティ権や肖像権に関する感覚は国によって異なり、本国では問題視されない手法が、日本では大きな炎上につながることもある。
フランチャイズ本部と現地店舗との間で、こうした法的リスクに関する教育や指導が十分に行われていたかどうかも、今回の一件で問われるポイントの一つだ。楊国福グループが今後どのような再発防止策を打ち出すのか、日本市場での信頼回復に向けた対応が注目される。


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