虚偽申告は罪になる?スーパー店員の狂言強盗事件

虚偽申告は罪になる?スーパー店員の狂言強盗事件 社会

兵庫県朝来市のスーパーで「強盗に襲われ約200万円を奪われた」と訴えていたパート従業員の梅村里香容疑者(50)が、実際には自ら店の金庫から約400万円を盗んでいたとして、窃盗の疑いで逮捕された。警察の調べに対し、家賃の督促で経済的に追い込まれ、盗みが発覚しないよう強盗に遭ったとうそをついたと供述しているという。

このニュースをきっかけに「虚偽の被害申告はどんな罪に問われるのか」を調べる人が増えている。この記事では事件の経緯とあわせて、関連する法律を解説する。元記事はこちら

事件の詳しい経緯

スーパー「ミニフレッシュ生野店」では8月24日午後1時半ごろ、梅村容疑者が売上金を銀行に預けるため駐車場で車に乗り込もうとしたところ、背後から何者かに羽交い締めにされて気絶し、現金約200万円が盗まれる強盗傷害事件があったと警察が発表していた。

梅村容疑者は軽傷を負ったとして病院に運ばれたが、診察の結果は異常なし、無傷だったという。この時点ですでに不自然な点が見え始めていた。

なぜ嘘が発覚したのか

警察が店内の防犯カメラを確認したところ、梅村容疑者が金庫を開けて中を確認する動きを何度もしていたことが判明した。さらに、梅村容疑者が金銭的に困窮していたことも分かり、改めて事情を聴いたところ、窃盗を自供したという。

盗んだ現金については「家に隠している」と供述したため自宅を家宅捜索したところ、実際に発見された。この日の午前11時すぎには金庫から約400万円を盗んでいたとして、窃盗の疑いで逮捕されている。

虚偽の110番通報は罪に問われるのか

今回のように、実際には起きていない犯罪被害を装って警察に通報する行為は、それ自体が別の犯罪にあたる可能性がある。警察や消防といった公的機関のリソースを不必要に投入させる行為は、社会的な影響も大きい。

ただし、どの罪状が適用されるかは、通報の内容や状況によって異なる。特定の個人を名指しで犯人と偽って訴えたのか、それとも今回のように「誰かに襲われた」という漠然とした被害を訴えたのかによって、法的な扱いは変わってくる。

虚偽告訴罪との違い

刑法上の「虚偽告訴罪」は、他人に刑事処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴や告発を行った場合に成立する犯罪で、法定刑は3カ月以上10年以下の懲役という重いものだ。

ただし、この罪が成立するには、特定の個人を対象として虚偽の申告を行う必要がある。今回のケースでは、梅村容疑者は「何者かに」襲われたと説明しており、特定の人物を犯人として名指ししたわけではないとみられるため、虚偽告訴罪には該当しない可能性が高い。

軽犯罪法における「虚偽申告」

特定の個人を対象としない虚偽の被害申告については、軽犯罪法1条16号が規定する「虚偽申告」が適用される可能性がある。この規定は、公務員の職務を妨害する目的で、虚偽の犯罪や災害の事実を申し立てた者を対象としており、拘留または科料という比較的軽い罰則が定められている。

今回のケースがこの規定に該当するかどうかは、捜査機関の判断次第となる。

偽計業務妨害罪という可能性

もう一つ考えられるのが「偽計業務妨害罪」だ。虚偽の風説を流布したり、偽計を用いたりして、警察の捜査業務や店舗の営業に支障を生じさせた場合に成立しうる犯罪で、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。

今回のケースでは、警察による大規模な捜査が行われた上、鑑識作業などにも人員が割かれたとみられ、こうした業務妨害の側面が問題視される可能性もある。警察は虚偽申告についても捜査していると報じられている。

窃盗罪と業務上横領罪の違い

今回、梅村容疑者は「窃盗」の疑いで逮捕された。窃盗罪は他人の財物を窃取した場合に成立し、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。今回の被害額は約400万円と高額であることから、量刑判断においても重い方向に傾く可能性がある。

一方、店の金銭管理を任されていた従業員が、自らの占有する会社の金銭を着服した場合には「業務上横領罪」が適用されることも多く、こちらは10年以下の懲役という、罰金刑のないより重い罪だ。今回のケースで窃盗罪が適用されたのは、金庫の管理権限や実際の占有状況が、業務上横領罪の要件に完全には合致しなかった可能性が考えられる。いずれにせよ、金銭を不正に自分のものにした点では共通している。

過去にもある「狂言強盗」の事例

自身が起こした横領や着服の発覚を防ぐために、架空の強盗被害をでっち上げる「狂言強盗」は、過去にも各地で報告されてきた事件のパターンだ。多くのケースで、防犯カメラの映像や不自然な行動、供述の矛盾などから、比較的早い段階で嘘が発覚している。

警察の捜査能力の向上や、店舗の防犯カメラの高精細化・増設が進んだことで、こうした狂言事件は以前にも増して発覚しやすくなっているとみられる。

なぜ「狂言強盗」に走ってしまうのか

梅村容疑者は「家賃の督促で経済的に追い込まれていました」と供述している。経済的な困窮が、横領や窃盗といった犯罪行為の引き金になるケースは、残念ながら珍しくない。

さらに、犯行の発覚を恐れるあまり、より重大な虚偽の被害申告という「二次的な嘘」を重ねてしまう心理は、追い詰められた人間の判断力の低下を示す典型例ともいえる。結果として、単純な窃盗にとどまらず、より複雑で発覚しやすい状況を自ら作り出してしまった格好だ。

今後の展開

警察は窃盗事件の詳しい経緯とあわせて、虚偽申告の部分についても引き続き捜査を進めるとみられる。防犯カメラの映像や金銭の使途など、客観的な証拠に基づいて、今後どのような法的処理がなされるのか注目される。

今回の事件は、経済的な困窮がどのように犯罪行為へとつながっていくのか、そしてその後の対応がどう事態を悪化させてしまうのかを示す、身近な教訓を残す出来事になった。

経済的に追い詰められた際に、誰にも相談できないまま一人で問題を抱え込んでしまうケースは少なくない。消費生活センターや法テラスなど、家計や借金に関する公的な相談窓口も整備されているだけに、犯罪という取り返しのつかない選択に至る前に、そうした支援を活用できる社会の仕組みづくりも重要な課題といえる。

事件を受け、勤務先のスーパーでは今後、金庫の管理体制や防犯カメラの運用について、見直しが図られる可能性もある。従業員による不正を防ぐための内部管理体制のあり方も、今回の事件が投げかけた論点の一つだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました