今川義元の実像は?「豊臣兄弟!」演出に批判殺到

今川義元の実像は?「豊臣兄弟!」演出に批判殺到 エンタメ

9月6日に放送されたNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」第34話が波紋を呼んでいる。人質時代の徳川家康(松下洸平)を回想する場面で、今川義元(大鶴義丹)とその息子・氏真が、家康に理不尽な命令を下す冷酷な人物として描かれたことに、視聴者から批判が相次いだ。

「昭和からアップデートなし」といった声も上がるこの演出。このニュースをきっかけに「今川義元の本当の人物像」を調べる人が増えている。この記事では史実における今川義元と氏真の姿を整理する。元記事はこちら

ドラマで描かれた内容

第34話では、幼いころに織田家、今川家の人質となった家康の回想が描かれた。今川家では嫡男・氏真にいじめられ、元服すると、それまで優しかった義元の態度が一変。家康がかわいがっていた小鳥を「いますぐ殺して見せよ」と命じ、逃げてしまった小鳥を氏真が鉄砲で撃ち落とすという場面が放送された。

涙を流す家康に、義元が「お前には選ぶ道などない」と言い放つ演出に、視聴者からは「テンプレ小悪党な今川親子を令和の世に見ることになるとは思わなかった」といった批判の声が寄せられている。

今川義元の本当の人物像

近年の歴史研究では、今川義元は決して凡庸な悪人ではなく、優れた政治手腕を持った戦国大名だったとする見方が一般的になっている。父・氏親が制定した分国法「今川仮名目録」のもとで領国が統治されており、これは当時としては先進的な法治の仕組みだったとされる。

「海道一の弓取り」と称されるほどの実力者で、多くの国人衆から支持を集めていた大大名だったことも知られている。単なる小悪党として描くには、あまりに実像とかけ離れているというのが、多くの歴史ファンの受け止めだ。

家康の人質時代の実際の扱い

かつての時代劇では、家康が今川家で虐げられていたとする描写が定番だったが、近年の研究では、今川家で高度な教育を受け、大切に育てられていたとする見方が主流になっている。

表面上は「人質」という立場であっても、実態は今川家の将来の家臣として育成する意図があったとされ、少年時代の家康は自由な環境で過ごしていたとする指摘もある。「豊臣兄弟!」で描かれたような、理不尽に虐待される人質像は、こうした近年の研究結果とは大きく異なる。

今川氏真と家康の実際の関係

ドラマでは家康をいじめる存在として描かれた今川氏真だが、史実における2人の関係は全く異なるとされる。氏真と家康は兄弟のように育った間柄で、実際には非常に仲が良く、晩年まで60年にわたって親交が続いていたことが分かっている。

2023年の大河ドラマ「どうする家康」では、今川義元は家康に為政者としての心構えを説く父親のような存在として、氏真も家康と兄弟のように育った仲として描かれており、今回の「豊臣兄弟!」とは正反対の人物像が示されていた。

相次ぐ史実との相違を巡る批判

「豊臣兄弟!」を巡っては、今回の今川父子の描写以前にも、史実との相違が指摘されてきた経緯がある。武将・中川清秀の「寝返り」という史実にない演出をめぐっては、清秀にゆかりのある大分県竹田市と大阪府茨木市が連名で、NHKに「遺憾の念を禁じ得ない」とする意見書を送付する事態にまで発展していた。

今回の今川父子の演出も、こうした一連の「史実との相違」を巡る批判の延長線上にある出来事として受け止められている。

静岡県における今川義元のイメージ

今川家の本拠地だった静岡県では、今川義元をモチーフにした「今川さん」というゆるキャラが存在するなど、地元では汚名返上を目指す動きも見られる。桶狭間の戦いでの敗死という結末から、後世のフィクションでは織田信長の引き立て役として否定的に描かれがちだった今川義元だが、地元では郷土の英雄として再評価する機運が高まっている。

今回のドラマ演出に対し、「静岡県民怒っていい」との声が上がったのも、こうした地元の思いを反映したものといえる。

「どうする家康」との描写の違い

2023年の大河ドラマ「どうする家康」と、今回の「豊臣兄弟!」における今川父子の描かれ方の違いは、単なる演出上の違いにとどまらず、大河ドラマにおける歴史人物解釈の振れ幅の大きさを示す事例としても興味深い。

同じNHKの大河ドラマでありながら、わずか数年の間に正反対ともいえる人物像が描かれたことは、視聴者にとって混乱を招く要因にもなっている。歴史ドラマが「史実」ではなく「解釈」であることを踏まえた上で、それぞれの作品を楽しむ視点が求められているといえる。

大河ドラマにおける“悪役”の描かれ方

大河ドラマでは、主人公を引き立てるために、対立する人物が実像以上に悪役として誇張して描かれることが少なくない。今川義元も、桶狭間の戦いで織田信長に討たれたという結末から、信長を英雄的に描くための当て馬として、否定的に描かれる傾向が長年続いてきた。

近年は歴史研究の進展により、こうした従来のステレオタイプな人物像を見直す動きが広がっている。今回の批判の背景には、こうした「アップデートされた歴史観」と「従来型のドラマ的演出」との間のギャップがあるとみられる。

今後の展開

大河ドラマにおける史実とフィクションのバランスは、これまでも度々議論の的になってきたテーマだ。ドラマとしての面白さを追求する演出上の工夫と、史実に基づいた人物描写への期待との間で、制作側は難しい舵取りを迫られている。

今後の放送でも、今川父子や他の歴史上の人物がどのように描かれていくのか、視聴者と歴史ファン双方からの注目が続きそうだ。

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