鈴木憲和農林水産大臣が、地元・山形県で開かれたJAグループの集会にオンラインで参加し、「山形の稲刈りが始まる前にしっかり買戻しをさせていただきたい」と、備蓄米の早期買い戻しに強い意欲を示したことが分かった。まれに見るコメ余りの状況にもかかわらず、コメ価格の下落防止に動く姿勢が注目されている。
このニュースをきっかけに「備蓄米制度とは何か」を調べる人が増えている。この記事では制度の仕組みと、今回の買い戻しを巡る背景を整理する。元記事はこちら。
備蓄米制度とは何か
備蓄米制度は1995年に確立された、政府が計画的にコメを備蓄する仕組みだ。1993年(平成5年)夏の記録的な冷害と長雨によってコメが大凶作となり、店頭からコメが消える「平成の米騒動」と呼ばれる事態が起きたことをきっかけに整備された。
制度上、10年に1度の不作にも対応できる量として、100万トンの備蓄を維持することが定められている。通常は毎年20万トン前後を新たに買い入れる一方、古くなったコメを飼料用などとして売却する形で入れ替えを行う「棚上備蓄」という方式が取られており、備蓄米は原則として主食用に販売されることはない。
なぜ今、買い戻しが議論されているのか
備蓄米は本来、不作や災害など緊急時への備えとして保有されるものだが、近年のコメの高騰対策として、政府は例外的に備蓄米を市場に放出してきた経緯がある。この結果、備蓄量は本来の100万トンから、現在は30万トン程度にまで減少しているとされる。
一方で、コメの高騰への反発から消費者がコメ離れを起こし、業者の倉庫には売れ残った昨年産のコメが積み上がる事態になっている。コメの民間在庫量は6月末時点で243万トンに達し、これは過去最大の水準だという。適正量とされる180万〜200万トンを大きく上回っている状況だ。
コメ価格の推移
昨年収穫されたコメは、首都圏で5キロ5000円台を突破するなど異常に高騰し、消費者の強い反発を招いた。うどんやパンへの主食の切り替えや、外国産米の購入に動いた消費者も少なくなかったとされる。
その後、業者が赤字を承知でコメを少しずつ市場に放出していることもあり、価格は下落傾向にある。かつて5キロ5000円を超えたコメは、現在は3200円前後まで下がり、特売品として2500円前後で販売されることもあるという。
買い戻しを求める声の背景
コメ価格の下落を懸念するJAなど関係者からは、備蓄米の早期買い戻しを求める声が強まっている。理論上、不足している70万トンを、余っている民間在庫243万トンから買い取れば、民間在庫は173万トンまで減少し、適正量の範囲に収まる計算になる。
今回の集会でも、JAの幹部が「今年の米価が下がっていくようであれば、私は息子に農家だけは止めておけと言わざるを得ません」と危機感を吐露している。生産者にとって、米価の下落は経営の存続に直結する切実な問題だ。
政府内での意見の対立
複数のメディアの報道によれば、鈴木農水相はこれまでも備蓄米の早期買い戻しを官邸に働きかけてきたが、高市早苗首相は強い不快感を示して拒否してきたとされる。物価高対策を重要政策に掲げる政権にとって、コメ価格の下支えにつながる買い戻しは、方針と矛盾しかねない政策判断だったためとみられる。
もっとも、今回鈴木農水相が公の場で買い戻しへの意欲を明言したことから、官邸側の姿勢に変化があった可能性も指摘されている。
消費者にとっての影響
コメ価格の下落は、円安による食料品の値上がりや、実質賃金の伸び悩みに苦しむ消費者にとって歓迎すべき動きだった。仮に備蓄米の買い戻しが実行され、価格下落に歯止めがかかった場合、消費者の家計への影響は避けられない。
一方で、生産者の経営が立ち行かなくなれば、中長期的には国内のコメの供給基盤そのものが揺らぎかねないという懸念もある。消費者と生産者、双方の利害が絡み合う難しい政策判断が求められている。
「コメ価格にコミットしない」という当初の姿勢
鈴木農水相は就任当初、コメ価格そのものについて政府が介入する姿勢を取らないとしてきた経緯がある。市場原理に委ねる形での価格形成を基本方針としていたはずが、今回の発言は、その姿勢からの転換とも受け取れる内容だ。
「コメ価格にコミットしない」としながらも、実質的には価格の下支えにつながる買い戻しに強い意欲を示したことに対し、方針の一貫性を疑問視する見方も出てきている。政治家としての立場と、地元選出議員としての立場との間で、判断が揺れている構図もうかがえる。
過去の農水大臣を巡る混乱
コメを巡る政策は、これまでも歴代の農水大臣の発言や対応が物議を醸してきた分野だ。過去には、コメに関する不用意な発言がきっかけで批判を浴び、辞職に至った大臣もいたとされる。
コメは日本人の主食であり、生産者・消費者双方にとって生活に直結する品目であるだけに、価格や需給を巡る政策判断は、常に強い注目とプレッシャーにさらされやすい分野だといえる。
今後の焦点
今年の新米収穫を控え、供給過剰による価格下落がさらに進むとの見方もある中、政府が実際にどのタイミングで、どの程度の量を買い戻すのかが焦点になる。稲刈りが本格化する前に決着をつけたいという鈴木農水相の発言通りに事が進むのか、今後の政府方針の発表が注目される。
いずれにせよ、備蓄米制度が本来想定していた「不作時の備え」という役割と、価格調整という政策目的が交錯する形になっており、制度の運用のあり方自体が問われる局面を迎えているといえそうだ。


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