山岳遭難の救助費用は有料?「2度遭難」問題を解説

山岳遭難の救助費用は有料?「2度遭難」問題を解説 社会

相次ぐ「2度遭難」に登山家が苦言

富士山が7月10日に山開きを迎え、本格的な登山シーズンが到来する中、長野県警察・山岳遭難救助隊が公式Xに「山で死ぬな」との呼びかけを投稿し話題になった。日々遭難者の救助にあたる救助隊が近年頭を悩ませているのが、1度救助された登山者がそのまま下山せず、再び救助を求める「2度遭難」だという。

長野県警察・山岳遭難救助隊は投稿の中で「突然のお電話…と、ご遺族に悲しいお知らせをする…あと何件すればいいのでしょうか」と切実な訴えをつづり、リスクの高い行動をやめるよう呼びかけていた。

白馬岳で起きた2度遭難のケース

6月30日、標高2932メートルの白馬岳(猿倉ルート)で、東京都在住の68歳男性が疲労により行動不能となり救助された。男性は付近の山小屋に収容されたが、救助隊とともに下山はせず、休養を取って2日後に下山を開始。しかしその途中で再び疲労により行動不能となり、2度目の救助が行われた。

この件を受け、登山家の野口健氏は自身のXで「『果たして助ける必要があるのだろうか』と首を傾げてしまう」「山を、救助隊員を『舐めていないかい』と憤りを感じる」と苦言を呈している。

富士山でも相次ぐ遭難・死亡事故

近年、富士山でも遭難や救助のケースが相次いでいるとされる。ある年の開山からわずか2日間で3人が死亡し、その年の開山期間を通じた死者数が前年の死者数を早々に上回るという事態も報告されている。警察庁の統計によると、山岳遭難者のうち約半数が60歳以上とされ、特に80代の遭難者は5年前と比べて約1.4倍に増えているという。

高齢化が進む登山人口の中で、体力の過信や準備不足による遭難が後を絶たない状況がうかがえる。

「弾丸登山」を防ぐ規制の効果

富士山の山梨県側・吉田ルートでは、夜通しで一気に山頂を目指す「弾丸登山」を減らすため、16時から翌日3時まで五合目のゲートを閉鎖する規制が導入された。この結果、夜間(21時〜24時)の登山者数は前年度に比べて約91%減少するなど、規制が一定の効果を上げているとみられる。

体調管理が難しい夜間の弾丸登山を制度的に抑制することは、遭難リスクを減らすうえで有効な手段の一つと評価されている。

山岳遭難の救助費用は誰が負担するのか

山岳遭難の救助は、消防や警察の防災ヘリコプターによるものであれば、多くの自治体で無償で行われている。長野県も現在、消防防災ヘリコプターによる救助を無償で実施しているとされる。一方、民間の山岳救助隊やヘリコプター会社に依頼した場合は、高額な費用が発生することもある。

有料化に踏み切った埼玉県の例

こうした「無料」であることが安易な救助要請につながっているとの指摘を受け、埼玉県は2018年に有料化に踏み切った。危険性の高い山岳地域を指定し、防災ヘリの飛行時間5分ごとに8000円の手数料を請求する仕組みで、これまでの徴収実績は1件平均で約7万2000円だったとされる。この条例は、2010年に秩父市で救助中の県防災ヘリが墜落し乗員5人が死亡した事故を契機に導入されたという経緯がある。

高齢登山者に求められる備え

富士登山を続ける高齢者の中には、事前のトレーニングを重ねて体力づくりに励む人も多いという。県警は、少しでも体調や天候に不安を感じたら登山を中止するよう呼びかけており、無理をしないという基本的な判断が、遭難を防ぐ最も確実な方法とされる。

「無料のタクシー感覚」からの脱却を

有料化には登山者の注意を喚起し、無謀な登山を減らす狙いがあるとされる。ただし、埼玉県以外に有料化条例を設ける自治体は現時点で限られており、無償による救助が基本という自治体が大半だ。命に関わる救助活動をどう支えていくか、今後も議論が続きそうだ。

山岳保険という選択肢

登山者自身が備える手段として、民間の山岳保険への加入も選択肢の一つとされる。捜索や救助にかかる費用、遭難時の治療費などを補償する保険商品が複数の保険会社から提供されており、本格的な登山を行う人の間では加入が一般的になりつつあるという。

特に民間ヘリコプターによる捜索・救助を依頼した場合、費用が数百万円単位に達することもあるとされ、こうした保険の有無が遭難時の負担を大きく左右する。

救助隊員が背負うリスク

遭難者の救助にあたる隊員自身も、悪天候や不安定な地形の中で活動するため、常に危険と隣り合わせだ。過去には救助中の事故で隊員が命を落とすケースも報告されており、救助活動そのものが「命懸け」であるという事実は、登山者側にも十分に認識される必要がある。

野口健氏が投げかけた「救助も命懸けだと想像して」という言葉には、こうした救助隊員の負担への理解を求める思いが込められているとみられる。

登山届の重要性

遭難時の初動対応を早めるうえで欠かせないのが「登山届」の提出だ。登山届には、登山ルートや同行者、下山予定日などの情報が記載され、万一連絡が取れなくなった場合に、捜索範囲を絞り込む手がかりとなる。近年はオンラインで手軽に提出できるシステムも普及しているが、提出せずに入山する登山者も依然として一定数いるとされる。

2度遭難のような事例を防ぐうえでも、登山計画そのものを慎重に立て、無理のない日程を組むことが基本になる。

今後求められる登山文化の見直し

近年は登山ブームやSNSでの発信を目的とした登山者の増加もあり、経験や装備が十分でないまま人気の山に挑戦するケースが増えているとの指摘もある。救助体制の整備や有料化といった制度面の対応と並行して、登山者一人ひとりが「自分の命は自分で守る」という意識を持つことが、根本的な解決には欠かせないとされる。

山の魅力を安全に楽しむためにも、無理のない計画と十分な準備が、これまで以上に重視される時代になっているといえそうだ。

SNS発信と登山リスクの関係

SNS映えする写真や動画を求めて、経験の浅い登山者が難易度の高いルートに挑戦するケースが増えているとの指摘もある。日の出の絶景や星空といった魅力的な瞬間を狙って夜間・早朝に行動することが、結果的に危険な状況を招く一因になっているとみられる。

発信そのものを否定する必要はないが、安全を犠牲にしてまで「映え」を優先する風潮には、登山関係者から警鐘が鳴らされ続けている。

自治体・関係機関が進める啓発活動

各地の警察や山岳団体は、登山シーズンを前に注意喚起の看板設置や、登山口でのパンフレット配布など、さまざまな啓発活動を行っている。近年はSNSを通じた発信にも力を入れており、若い世代への周知を強化する動きも見られる。

それでも遭難事故が後を絶たない現状を踏まえると、制度面の対策と個々の意識向上の両輪で、粘り強く取り組みを続けていく必要がありそうだ。誰もが安全に山を楽しめる環境を、社会全体で支えていく視点が求められている。

登山ブームの光と影

コロナ禍を経て、自然の中でリフレッシュできるアクティビティとして登山の人気は根強く続いている。初心者向けのガイドツアーや装備レンタルサービスも充実し、これまで登山経験のなかった層が気軽に山に挑戦しやすい環境が整ってきた側面もある。

その一方で、手軽に始められるようになったことが、経験不足のまま難易度の高い山に挑む人を増やす要因にもなっている。登山人口の裾野が広がることと、遭難リスクの管理は、表裏一体の課題として向き合う必要がありそうだ。

元記事はこちら:「無料のタクシー感覚」山岳救助隊が頭を抱える“2度遭難”の実態(Yahoo!ニュース)

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