九州大学法学部の岡﨑晴輝教授がXで、大学の入学難易度をもとに学生をからかう人気YouTubeチャンネル「wakatte.tv」を名指しし、「大学の入学難易度を基準に学生をからかうというスタイルには強い嫌悪感を覚えます」と投稿したことをきっかけに、SNS上で激しい論争が巻き起こっている。
この論争を機に「学歴コンプレックス」という言葉を調べる人が増えている。この記事ではwakatte.tvを巡る論争の内容と、学歴コンプレックスという言葉の背景を整理する。元記事はこちら。
wakatte.tvとはどんなチャンネルか
「wakatte.tv」は、日本の学歴社会をブラックユーモアで風刺する街頭インタビュー形式のYouTubeチャンネルだ。街頭や大学キャンパスで通行人に出身校を尋ね、偏差値や大学群の序列に沿って大げさに褒めたりけなしたりする企画を看板としており、登録者数は約76万人にのぼる人気チャンネルとなっている。
「明治なんて行ったら恥」「法政でコンプ持っていない人いない」といった過激な発言が動画内で飛び交うことも多く、以前から賛否が分かれる存在だった。
学歴コンプレックスとは何か
学歴コンプレックスとは、自分の最終学歴や出身大学の偏差値・知名度に対して抱く劣等感を指す言葉だ。周囲との比較や社会的な評価を過度に意識してしまうことで、自己肯定感が下がったり、精神的な負担を感じたりする状態を広く指すために使われる。
SNS上では「学歴コンプレックスあるある」といった形で共感を集める投稿も多く、多くの人が多かれ少なかれ経験する感情として語られることが多い言葉でもある。
心理学的には、こうした劣等感は必ずしも悪いものではなく、努力の原動力になる場合もあるとされる。ただし、それが行き過ぎて自己否定感につながったり、他者との比較を過度に繰り返してしまったりする場合には、精神的な負担が大きくなるとも指摘されている。
岡﨑教授が投稿したきっかけ
岡﨑教授は自殺対策に取り組む団体で理事・監事を長年務めており、大学1年生のクラス担任として、入試の結果によって気を病んでしまう学生を数多く見てきたという。所属する九州大学法学部の後期入試には、東大や京大の前期日程で不合格になった学生も少なくないといい、そうした学生たちの相談を受けてきた経緯がある。
岡﨑教授は取材に対し「恥ずかしながら『学歴厨』という言葉を知ったのも、偏差値をネタにするチャンネルが人気なことを知ったのもつい最近」と明かし、病んでしまう学生の背景を知って「胸を突かれる思いでした」と振り返っている。
学生たちから寄せられた声
岡﨑教授の投稿には、多くの学生や元学生から反響が寄せられた。「慶應合格でも国立じゃない」「上智でも入試方式でバカにされた」といった、大学名だけでなく入試方式や併願状況まで細かく序列化されて評価されることへの息苦しさを訴える声が相次いだという。
難関大学に合格していても安心できず、常に誰かと比較され続ける感覚に苦しんでいる学生が少なくないことが、こうした声を通じて浮き彫りになった。
wakatte.tvの出演者と成り立ち
wakatte.tvは高田ふーみんとびーやまの2人が中心となって運営してきたYouTubeチャンネルだ。街頭インタビューという形式そのものは目新しいものではないが、大学の序列を露骨にネタにするスタイルが独自の人気を集め、学歴系YouTubeチャンネルの先駆けとして知られるようになった。
チャンネルの人気の高さは、それだけ「学歴」という話題が多くの人にとって身近で、かつ感情を揺さぶりやすいテーマであることの裏返しともいえる。娯楽として消費される一方で、今回のような批判が繰り返し起きてきた背景には、このテーマの持つ両面性がある。
過去にも指摘されてきた「学歴いじり」の是非
学歴を基準に人をからかったり評価したりするコンテンツを巡っては、これまでも度々議論が起きてきた。大学名だけで人物像を決めつける「学歴フィルター」的な発想への批判は、就職活動の文脈でも以前から指摘されている。
今回の論争が特に大きな反響を呼んだのは、教育現場の最前線に立つ大学教授という立場からの発信だったことに加え、実際に病んでしまった学生の生の声が可視化された点が大きい。単なる「不快だ」という感情論ではなく、具体的な被害の実態が伴っていたことが、論争を社会問題として広げる力になった。
「武田塾」との関係を巡る指摘
論争が広がる中、岡﨑教授はさらに、wakatte.tvの出演者の一人が大学受験予備校「武田塾」の教務スタッフである点を指摘した。「もし学歴不安を煽って塾に来させようとしているのであれば、霊感商法と何が違うというのでしょうか」と厳しい言葉で批判し、チャンネルの閉鎖を求めている。
学歴を巡る不安や劣等感をエンターテインメントとして消費させる構造が、実はビジネスとも結びついているのではないかという指摘は、論争をさらに大きくする要因になった。
SNS上での賛否
今回の論争は、単純な「賛成・反対」では割り切れない広がりを見せている。「これはただの風刺で、深刻に受け止めすぎでは」という擁護の声がある一方、「実際に傷ついている学生がいる以上、看過できない」という岡﨑教授への共感の声も多く寄せられた。
ブラックユーモアとして楽しめる層と、実際に学歴コンプレックスで苦しんできた層との間で、受け止め方に大きな差があることが、今回の論争を長引かせている要因といえそうだ。
日本社会と学歴主義の背景
日本では戦後の高度経済成長期を通じて、大学進学と就職・出世が強く結びつくとされる「学歴社会」の構造が定着してきたとされる。偏差値によって大学を序列化する見方も、こうした社会構造の中で広まってきた側面がある。
近年は大学全入時代を迎え、以前に比べて進学のハードル自体は下がったとされる一方で、SNSの普及によって出身大学が可視化されやすくなり、かえって学歴を意識せざるを得ない場面が増えているとの指摘もある。
学歴コンプレックスとどう向き合うか
今回の論争は、エンターテインメントとしての「学歴いじり」と、実際に苦しんでいる当事者の存在という、二つの現実が同時に浮かび上がった出来事だったといえる。岡﨑教授のように、教育現場で学生と向き合う立場から声を上げたことの意義は大きい。
学歴という一つの指標だけで人の価値を測ろうとする風潮に対し、どう距離を取るか。今回の論争をきっかけに、多くの人が自分自身の学歴観を見つめ直す機会になりそうだ。
wakatte.tv側から今回の批判に対する正式なコメントが出るのか、チャンネルの内容に何らかの変化が生じるのか。教育現場と娯楽コンテンツの間にある溝がどう埋まっていくのか、今後の展開が注目される。


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