国旗損壊罪はなぜ「違憲」と批判される?東京弁護士会の主張

国旗損壊罪はなぜ「違憲」と批判される?東京弁護士会の主張 政治

施行前日、東京弁護士会が廃止を要求

日本の国旗を傷つける行為を処罰する「国旗損壊罪」の施行を翌日に控えた8月12日、東京弁護士会は「最高裁で違憲無効とされるべき運命にある」として、速やかな廃止を求める会長声明を発表した。同会は6月30日付の声明でも、憲法が保障する「思想・良心の自由」や「表現の自由」を侵害するとして、法案の成立に強く反対してきた経緯がある。

法案はどのように成立したのか

国旗損壊罪の起点となったのは、参政党が2025年10月27日に参議院へ提出した刑法改正案だとされる。当初の提案では「日本を侮辱する目的で国旗を損壊した者は、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金に処する」という内容が盛り込まれていた。その後、自民党と日本維新の会の連立政権合意にこの構想が盛り込まれ、2026年6月16日には自民・維新・国民民主・参政の4党が共同で法案を衆院に提出。参院内閣委員会での審議を経て7月16日に可決、17日の参院本会議で可決・成立した。

審議の過程では、当初含まれていたSNSへの投稿・アップロード行為を処罰する規定について、表現の自由への懸念から削除される修正が加えられた。ただし、国旗を損壊する様子を生配信する行為については、引き続き処罰の対象とされている。

「表現内容に着目した規制そのもの」との批判

声明では、自己所有の国旗を使って国や政府、政策への批判を表現することは「表現の自由の核心に位置する政治的表現」だと指摘。「国旗を大切に思う国民感情」の保護を理由とした処罰は「表現内容に着目した規制そのもの」であり、厳格な憲法審査に堪えられないと主張している。

さらに、処罰の要件となる「著しく不快又は嫌悪」という基準についても、受け止め方は人によって異なるとして、罪と刑罰の内容をあらかじめ明確に定めておくべきだとする「罪刑法定主義」に反すると批判した。

刑事法学者・憲法研究者からも反対の声

声明では、7月9日に刑事法学者148人が、8月4日には憲法研究者201人が、それぞれ同法に反対する声明を出したことも紹介されている。参議院内閣委員会で参考人として出席した学者の発言を引用し、同法は「最高裁判所において違憲無効とされるべき運命にある」との見解も強調した。

警察庁も「慎重な運用」を通達

参議院内閣委員会の付帯決議では、国旗に対する特定の思想や感情を強制しないよう求める内容が盛り込まれたほか、警察庁も都道府県警に対し慎重な運用を求める通達を出している。東京弁護士会は、こうした対応自体が「同法律には看過しがたい問題があることの証左である」と指摘した。

「捜査・逮捕の対象にしないこと」を要求

そのうえで東京弁護士会は、捜査機関に対し、法施行後も国旗を用いた表現行為を「捜査、逮捕、送致、起訴その他一切の刑事手続の対象としないこと」を強く求めた。国会に対しても、法律の速やかな廃止を求める立法措置を講じるよう訴えている。施行を目前に控え、法曹界からの異論がどのような形で受け止められるのか注目される。

法案提出の背景にあった立法事実論争

今回の法整備をめぐっては、そもそも国旗損壊行為がどの程度の頻度で実際に発生しているのか、処罰の必要性を裏付ける「立法事実」が十分に存在するのかという点についても議論があった。反対派は、深刻な被害が確認されていない中での刑罰創設は過剰規制だと主張してきた経緯がある。

一方で賛成派は、外国の国旗を損壊する行為を罰する規定が存在する以上、自国の国旗についても同様の規定を設けるべきだという「アンバランス是正」の論理を主張し、最終的にはこの立場が国会での多数を占める形となった。

他国における国旗保護法制との比較

諸外国においても、自国の国旗の扱いを法律で規制する例は少なくない。ただし、規制の厳しさや処罰の対象範囲は国によって大きく異なり、表現の自由をどこまで重視するかという価値観の違いが色濃く反映されているとされる。今回の日本の法整備が、国際的に見てどのような位置づけになるのかも、今後の比較法的な議論の対象になりそうだ。

今後想定される違憲訴訟の行方

東京弁護士会が指摘するように、今回の法律が実際に適用された場合、被告人側が違憲性を主張して裁判で争う可能性は十分に考えられる。最終的に最高裁でどのような判断が示されるかによって、この法律の存続そのものが左右されることになりそうだ。

法曹界からの強い反対の声を押し切る形で成立した経緯だけに、施行後の運用実態にも厳しい目が向けられることになるだろう。

提案政党である参政党の立場

今回の法案を最初に提案した参政党は、日本の伝統や国旗・国歌への敬意を重視する立場を掲げてきた政党として知られる。今回の法整備の実現は、同党にとって政策実現の大きな成果として位置づけられているとみられる。

一方で、少数政党の提案が最終的に4党共同提出という形で成立に至った経緯は、近年の国会における政党間の連携のあり方を示す事例としても注目されている。

市民団体・一般国民の反応

今回の法律をめぐっては、法曹界だけでなく、一般市民や市民団体からもさまざまな声が上がっている。賛成派からは「国旗への敬意を守るために必要な措置」との評価がある一方、反対派からは「表現の自由を萎縮させる」との懸念が示されるなど、世論も大きく分かれている。

今後の運用実態次第で、こうした世論の評価がどちらに傾いていくのかも注目されるところだ。

今後の国会論戦への影響

今回の一件は、今後の国会における立法プロセスのあり方にも一石を投じたといえる。少数政党発の法案が連立政権の合意を経て多数党の賛成で成立するという経緯は、今後の政党間連携のモデルケースとしても注目されており、同様の手法で他の法案が提出される可能性も指摘されている。

国旗損壊罪の行方は、単なる一法律の存廃にとどまらず、日本の立法プロセス全体を占ううえでも重要な事例になりそうだ。

表現の自由をめぐる今後の議論

今回の一件は、国旗という象徴的なモチーフを通じて、表現の自由と社会的な感情の保護のバランスをどう取るべきかという、より普遍的な問いを社会に投げかけた。同様の議論は、今後も別のテーマで繰り返される可能性がある。

施行後の実際の運用を通じて、この法律が社会にどのような影響を及ぼすのか、引き続き注視していく必要がありそうだ。国旗という身近な存在をめぐる議論が、今後も社会の関心事であり続けることは間違いない。

元記事はこちら:国旗損壊罪は「違憲無効になるべき運命」(弁護士ドットコムニュース)

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