「体が思うように動かない自分にも、認知症の妻にもイライラしてしまう」。鹿児島県内に住む88歳の男性は、右半身にまひを抱えながら、認知症の症状が進行する87歳の妻を介護する日々をそう打ち明ける。厚生労働省の調査によると、こうした後期高齢者同士による「超・老老介護」は、要介護者と介護者が同居するケースの約4割に達しているという。
このニュースをきっかけに「超・老老介護とは何か」を調べる人が増えている。この記事では男性が語る実態とあわせて、制度的な支援の仕組みを整理する。元記事はこちら。
「超・老老介護」とはどんな状態か
「超・老老介護」とは、75歳以上の後期高齢者が、同じく75歳以上の後期高齢者を介護している状態を指す言葉だ。65歳以上同士が介護し合う一般的な「老老介護」と比べても、健康面や経済面での不安がより大きいとされる。
厚生労働省が7月に発表した国民生活基礎調査によると、要介護者とケアラー(介護者)が同居しているケースのうち、双方が75歳以上の「超・老老介護」は2025年時点で37.1%。調査を始めた2001年の18.7%から倍増し、過去最高を記録した。
男性が語る介護の実態
鹿児島県内の男性は71歳の時、関東地方から夫婦の故郷である同県へ戻った。5年が過ぎた頃、脳梗塞になり後遺症で右半身が動かなくなった。利き手の右手が使えず車の運転もできなくなったが、当初は妻が支えてくれていたという。
その妻が約5年前に認知症を発症。物忘れや失禁が徐々に増え、男性は不自由な体に加え持病の糖尿病治療も続けながら、妻の通院の付き添いや下の世話、料理や洗濯などの家事に追われるようになった。「朝、自分の着替えと洗顔だけで40分以上かかる。とても続けられないと思った」と振り返る。
介護サポート付きマンションへの転居
昨年、夫婦は介護のサポートを得られる県内の賃貸マンションに引っ越した。現在、男性は要支援2、妻は要介護2の認定を受けている。公的な介護保険のサービスでは足りない妻の入浴介助や食事作りなどは自費で依頼することにして、男性の負担は一定程度軽減された。
それでも妻の症状は日に日に悪化していく。マンション内で迷子になったり、IHコンロのスイッチを付けっぱなしにしていたりと、そのたびに対応に追われ神経をすり減らすという。「明るく、てきぱきとした昔の姿が記憶に残っている。それだけに、つい『なんでだ』と、とがめてしまう……」と男性は寂しげな表情を見せる。
なぜ後期高齢者同士の介護が増えているのか
厚労省の担当者は、超・老老介護の増加要因について「人口の多い1947〜49年生まれの団塊世代が75歳以上になったことと、高度経済成長期以降に核家族化が進んだことが主な要因だ」と説明している。かつては同居する子世代が介護を担うケースが多かったが、核家族化によってその選択肢が失われつつある。
「後期高齢者同士の介護は今後も増えていくだろう」と、担当者は今後の見通しを語っている。
公的介護保険サービスの限界
今回の男性のケースのように、公的な介護保険サービスだけでは日常のすべてをカバーしきれず、自費でのサービス利用を組み合わせるケースは少なくない。介護保険には要支援・要介護度に応じた利用限度額が設定されており、それを超える分は全額自己負担となる。
経済的な余裕がない高齢者夫婦にとって、こうした自費サービスの利用は大きな負担となりやすく、公的支援だけで十分な介護体制を組めるかどうかは、家庭ごとに大きな差が生じているのが実情だ。
介護負担が引き起こすリスク
長期間にわたる介護は、介護者自身の心身の健康にも大きな影響を及ぼすとされる。慢性的な疲労やストレスの蓄積は「介護うつ」と呼ばれる状態を招くことがあり、深刻化すれば介護者自身が心身のバランスを崩し、共倒れに至るリスクも指摘されている。
特に超・老老介護のケースでは、介護者自身も持病や身体機能の低下を抱えていることが多く、一般的な老老介護以上に危険度が高いとされる。今回の男性のように、糖尿病の治療を続けながら介護にあたるケースは、決して珍しくない実態だ。周囲に気づかれないまま孤立した状況で介護が続くと、家庭内での摩擦や虐待といった深刻な事態につながる恐れもあり、早期の周囲の気づきと介入が重要とされている。
地域包括支援センターの役割
高齢者やその家族が介護に関する相談をする際の身近な窓口として、全国の市区町村に設置されているのが「地域包括支援センター」だ。介護保険サービスの利用相談だけでなく、介護予防や権利擁護、地域の見守り活動の調整など、幅広い役割を担っている。
今回のようなケースでは、こうした地域の相談窓口を早期に活用することが、公的サービスと自費サービスを適切に組み合わせ、無理のない介護体制を築く上で重要な鍵になる。
レスパイトケアという支援の仕組み
介護者の負担を軽減する仕組みとして知られているのが「レスパイトケア」だ。レスパイトとは「休息」「息抜き」を意味する言葉で、在宅で介護している家族が一時的に介護から離れて休息を取れるよう支援するサービスを指す。
介護保険制度上は、短期入所生活介護(ショートステイ)などの形で位置づけられており、当初は「社会的な事由」に利用が限定されていたが、現在は介護疲れといった私的な事由でも利用できるようになっている。かかりつけ医やケアマネジャー、地域包括支援センターなどが相談窓口となる。
今後の支援のあり方
超・老老介護は、身体的な負担だけでなく、経済的な不安や精神的な孤立感を伴いやすい状況だ。介護者自身が要支援・要介護の認定を受けているケースも多く、「介護する側」と「介護される側」の境界が曖昧になっている点も、この問題の複雑さを増している。
超高齢化が進む日本において、後期高齢者同士の介護をどう社会全体で支えていくか。レスパイトケアのような既存の支援制度の周知徹底とあわせて、より踏み込んだ支援のあり方が今後問われることになりそうだ。
男性は妻について「明るく、てきぱきとした昔の姿が記憶に残っている」と語る。長年連れ添ってきた伴侶の変化を受け入れながら、それでも日々の介護を続ける後期高齢者夫婦の姿は、今の日本社会が抱える高齢化の縮図ともいえる。
団塊世代の高齢化がさらに進む中、超・老老介護の割合は今後も増加が見込まれる。個々の家庭の努力だけに頼るのではなく、社会全体でこの課題をどう支えていくかが、待ったなしの政策課題として問われている。


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