遥拝とは?高市首相が靖国参拝の代わりに行った作法

遥拝とは?高市首相が靖国参拝の代わりに行った作法 社会

高市早苗首相は8月15日の終戦の日、靖国神社への参拝を見送った。その代わりに、全国戦没者追悼式が行われた日本武道館の駐車場から靖国神社の方向を向いて「遥拝」を行った。かねて参拝実現を訴えてきた首相だけに、この対応は大きな注目を集めている。

聞き慣れない「遥拝」という言葉を検索する人も増えている。この記事では遥拝の意味とあわせて、今回の一連の経緯を整理する。元記事はこちら

高市首相が行った「遥拝」とは

首相は15日午前、全国戦没者追悼式に出席するため訪れた日本武道館の駐車場で車を降りると、靖国神社の方向を向き、二礼二拍手一礼をした。周囲には「参拝できない時は、正式な作法で『遥拝』を行う」と説明したという。

靖国神社と日本武道館は約200メートルしか離れておらず、目と鼻の先にある神社への参拝を見送り、遠くから拝む形を選んだ点が、多くの関心を集める結果になった。

遥拝の意味と読み方

遥拝は「ようはい」と読み、遠く離れた場所から神仏に向かって拝むことを指す言葉だ。直接その場所を訪れることが難しい場合に、対象のある方向を向いて祈りを捧げる行為を意味する。

神道や仏教に限らず、さまざまな宗教的文脈で使われる言葉でもある。今回のように、実際に足を運ばずに敬意を示す方法として、皇居や神社への遥拝は歴史的にも例が見られる作法だ。

遥拝の作法

遥拝で用いられる所作は、神社参拝の基本作法である「二拝二拍手一拝」に準じる。対象の方向に向かって姿勢を正して立ち、手を合わせて指先をそろえ、頭を下げながら心を落ち着けて敬意を表す、という流れになる。

首相もこの作法にのっとり、靖国神社の方向を向いて二礼二拍手一礼を行ったとされる。正式な参拝と同様の礼を尽くす形を取ることで、参拝できない事情を補う意味合いがあったとみられる。

なぜ参拝を見送ったのか

首相は外交への影響を考慮し、参拝を見送ったとみられている。首相は韓国の李在明大統領と良好な関係を築いている一方、靖国神社を参拝すれば関係悪化は避けられない。冷え込んだ日中関係の立て直しも課題となっており、周辺諸国から理解を得られる環境が整っていないと判断したようだ。

首相は2024年の党総裁選出馬時には「靖国神社参拝を首相として実現する」と訴えていたが、総裁就任後は「適切に判断する」と明言を避けてきた経緯がある。今年2月には「同盟国や周辺諸国にも理解を得る環境を作るのが目標だ」とも述べていた。

中国の反応

一方、高市内閣の閣僚が靖国神社を参拝したことに対し、中国外務省の報道官は強く反発した。「厳正な申し入れと強烈な抗議をした」との談話を発表し、「戦後の国際秩序への挑戦だ」と強調している。

中国側は靖国神社を「事実上の戦犯神社」と主張し、防衛力強化を進める高市政権を「新型軍国主義」と批判する立場をとっている。今年が極東国際軍事裁判の開廷80年にあたることも踏まえ、歴史認識を巡る姿勢を強く打ち出した形だ。

ゆたぼんら国内からの批判

国内でも、首相の対応にはさまざまな反応が寄せられた。元不登校YouTuberのゆたぼん(17)はXで、首相がかつて「総理になっても参拝する」と語っていたことを引き合いに、「国民との約束を破ったり、嘘をつくような総理は信用できない」と繰り返し批判した。

その上で、参拝しないと明言していた石破茂前首相の対応と比較し、「高市総理よりも石破さんの方が筋が通ってる」と評した。有言実行しなかった点への失望が、批判の核心にあるとみられる。

保守層からの参拝を求める声

一方、首相を支持する保守層からは、在任中の参拝を求める声も根強い。長島昭久・前首相補佐官は靖国神社に参拝した後、「(首相が参拝する)正常な状況に戻していく努力も政治家にとっては非常に大事な課題だ」と指摘している。

自民党の鈴木幹事長も靖国神社を参拝し、党総裁としての首相の玉串料を納めた上で「高市総裁のご英霊への思いは十分承知している」と代弁する場面もあった。首相本人の参拝実現を求める声は、党内でも消えていない。

全国戦没者追悼式とは

首相が遥拝を行った際に出席していた「全国戦没者追悼式」は、政府主催で毎年8月15日に日本武道館で開かれる式典だ。先の大戦で亡くなった軍人・軍属や民間人を追悼する国の公式行事として、天皇皇后両陛下も出席される。

式典では正午に黙とうが捧げられ、首相が式辞を述べる。靖国神社への参拝とは異なり、特定の宗教施設ではなく国が主催する追悼行事という位置づけであるため、政教分離の観点からも参拝とは切り分けて考えられている。

「玉串料」とは何か

今回、高市首相は靖国神社に玉串料を奉納している。玉串料とは、神社に参拝や祈願をする際に納める謝礼のことで、榊の枝に紙垂を付けた「玉串」を神前に捧げる代わりに金銭で納める形式を指す。

首相本人が参拝しなくても、玉串料を奉納することで一定の敬意を示す形は、歴代首相もたびたび用いてきた対応だ。今回は自民党の鈴木幹事長が党総裁としての首相の玉串料を代理で納めている。

靖国神社を巡る歴史的経緯

靖国神社は、明治維新以降の戦没者を祀る神社として1869年に創建された。先の大戦で亡くなった軍人・軍属らも合祀されており、日本にとっては戦没者を追悼する重要な場所である一方、A級戦犯とされた人物も合祀されていることから、中国や韓国など近隣諸国との間で歴史認識を巡る摩擦の火種にもなってきた。

歴代首相の参拝が国際問題に発展した例は過去にも複数あり、参拝の有無そのものが日本の外交姿勢を象徴する出来事として、国内外から注視され続けている。

歴代首相の対応との比較

靖国神社参拝を巡っては、歴代首相の対応もそれぞれ異なってきた。参拝を続けた首相もいれば、在任中は参拝を控える首相もおり、その都度、国内外の反応が分かれてきた歴史がある。

今回の「遥拝」という選択は、参拝と不参拝の間を取るような、これまでとは異なる対応として注目された。今後、この形が定着するのか、それとも将来的な参拝実現への布石となるのか、注視される。

今後の焦点

首相は外交関係と自身の支持層からの声の両方を踏まえながら、今後も判断を迫られることになりそうだ。遥拝という選択が、参拝実現を求める勢力と、外交上の配慮を求める勢力のどちらからも完全には支持されない、難しい落としどころだったことは否めない。

終戦の日という特別な節目に見せたこの対応が、今後の日中・日韓関係、そして党内の求心力にどう影響していくのか、引き続き注目されるテーマになりそうだ。

「遥拝」という言葉自体が広く知られるきっかけになったことも、今回の一件の副産物といえる。政治的な立場の違いを超えて、日本の戦没者追悼のあり方そのものへの関心が高まった点は、今後の議論にとっても意味を持ちそうだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました