コメ価格はなぜ下がらない?農家苦境の実態と論争

コメ価格はなぜ下がらない?農家苦境の実態と論争 社会

「令和の米騒動」から一転、コメ価格が急落

2024年夏に全国で品薄と価格高騰を招いた「令和の米騒動」から一転、コメの価格が今度は急落し、生産現場を苦しめている。8月に入り、5キロ2600円台のコシヒカリがスーパーに並ぶなど、1年前と比べほぼ半値まで落ち込んだ地域もあるという。

民間在庫量は過去最大の243万トンに

コメの在庫水準の目安とされる「民間在庫量」の適正水準は180万〜200万トンとされる。2024年6月には153万トンまで落ち込み品薄感が強まったが、その後の増産や需要減少などが重なり、2026年6月末には過去最大の243万トンまで積み上がった。スーパーの平均米価も、2026年年初の5キロ4416円をピークに急落し、約3300円まで下がっている。

政府は昨年、備蓄米の放出などで価格抑制に動いたが、放出した備蓄米の買い戻しは「原則1年以内」から「原則5年以内」へと期限が延長され、いまだ実施されていない状況が続く。

農家が悲鳴、「作れば作るほど赤字に」

栃木県の大規模コメ農家は「コメを作れば作るほど赤字になる」と窮状を訴える。高騰時には「コメはあるだけいくらでも欲しい」と群がっていた集荷業者も、今では在庫を持て余し、「今回は買えません」と取引を断るケースが相次いでいるという。トラクターのオイルなど農機具関連のコストも高騰しており、「借金8000万円」を抱える農家の実情も明らかになっている。

そもそも「減反政策」とは何だったのか

コメの価格変動の背景を理解するには、長年続いた「減反政策」の歴史を押さえておく必要がある。減反政策は1970年に始まった、コメの生産量を需要に見合う水準に調整するための生産調整策で、国が農家ごとに主食用米の生産量目標を割り当てる仕組みとして長く運用されてきた。

2013年、政府はこの生産調整を2018年度に廃止する方針を決定し、実際に2018年から国による生産数量目標の配分は廃止された。以降は産地・生産者が中心となって、需要に応じた多様なコメの生産・販売を行う体制に移行している。

「事実上の減反」は今も続いている

制度上の減反は廃止されたものの、農林水産省は現在も需要予測に基づく生産量の目安を示しており、主食用米から麦・大豆・飼料用米などへの転作を行う農家には補助金が交付されている。このため、専門家の間では「事実上の減反は今も続いている」との指摘もある。

今回のような急激な価格変動は、生産者が需給見通しを立てにくい市場環境の中で、増産と価格下落のサイクルが繰り返されるリスクを改めて浮き彫りにしたといえそうだ。

なぜ価格は下がらないのか、専門家の見解が対立

供給が十分にあるにもかかわらず、なぜ価格が高止まりしているのかを巡っては、専門家の間でも見解が分かれている。ある論者は「コメ不足への不安が市場心理として広がったことが原因」と分析するが、これに対し元農水官僚の研究者は「供給が十分にあると分かればパニック心理は落ち着くはずで、年をまたいで価格が下がらない今の状況は市場心理だけでは説明できない」と反論しており、議論は決着していない。

揺れる農政、農家が求める安定

短期間で暴騰と暴落を繰り返したコメ市場は、消費者にとっては家計の変化として、農家にとっては経営の死活問題として、それぞれ大きな影響を及ぼしている。猫の目のように変わる農業政策に翻弄され続ける生産現場から、価格の安定を求める声はやまない。

集荷業者・卸業者にも及ぶ影響

価格の乱高下は、コメ農家だけでなく、集荷や卸を担う業者にも大きな影響を及ぼしている。高騰時に高値で仕入れたコメの在庫を抱えたまま値崩れを迎えた業者も多いとされ、業界全体で在庫リスクへの警戒感が高まっているという。

今回、複数の業者が農家からの買い取りを断るという異例の事態が起きた背景にも、こうした在庫過多の状況が影響しているとみられる。

消費者にできることは何か

コメ農家の窮状に対し、消費者としてできることの一つが、産地や生産者を意識した購入だとされる。価格の安さだけでなく、こうした背景を知ったうえで国産米を選ぶ消費行動が広がれば、生産現場への一定の支えになる可能性がある。

今後も続くとみられる価格変動の中で、生産者と消費者の双方にとって納得感のある着地点をどう見出していくかが、農政の大きな課題であり続けそうだ。

次年産への懸念、農家の作付け判断

今回の価格急落を受け、来年産の作付けを縮小しようと考える農家が増える可能性も指摘されている。しかし、需要予測が外れて再び品薄になれば、数年前と同じような価格高騰を招きかねないというジレンマもある。

農家一軒一軒の作付け判断が積み重なった結果として、コメ市場全体の需給バランスが決まる構造上、個々の農家が将来を見通しづらい状況が続いていることも、今回の乱高下の背景にあるとみられる。

政府に求められる中長期的な政策

専門家の間では、単年度の価格変動に場当たり的に対応するのではなく、中長期的な視点でコメの需給を安定させる政策設計が必要だという指摘が根強い。備蓄米の運用ルールの見直しや、農家への安定した所得補償の仕組みづくりなど、議論すべき論点は多岐にわたる。

「令和の米騒動」から一転しての急落という今回の経験を教訓に、より予測可能で持続可能なコメ政策への転換が求められている。

海外への輸出拡大という選択肢

国内需要が減少傾向にある中、余剰米を海外へ輸出する取り組みも一部で進められている。海外の日本食レストランの増加などを背景に、日本産米への需要は徐々に広がりつつあるとされ、国内市場だけに依存しない販路の多様化が、価格の乱高下を緩和する一つの手段として期待されている。

ただし、輸出には検疫や物流コストなどの課題も多く、短期間で国内の供給過剰を解消できるほどの規模には至っていないのが実情だ。

加工用米・飼料用米への転換促進

主食用米の供給過剰を緩和する手段として、飼料用米や米粉用米への転換を促す補助金制度も引き続き活用されている。ただし、転換には栽培品種の変更や新たな販路の確保が必要になるため、農家にとってはハードルが低いとは言えないのが実情だ。

需給バランスの調整を農家個々の努力だけに委ねるのではなく、政府や業界団体が中長期的な視点で誘導策を講じていくことが、今後ますます重要になりそうだ。生産現場の声に耳を傾けた政策運営が、これまで以上に求められている。

消費者から見た米価下落の受け止め方

家計にとっては、コメの価格が下がることは単純に歓迎できる話に思える。しかし、生産基盤である農家が経営破綻に追い込まれれば、中長期的には国内の米生産力そのものが低下し、将来的な供給不安につながりかねない。

目先の安さだけでなく、持続可能な形で国産米が供給され続ける仕組みをどう作るか、消費者としても関心を持ち続ける必要がありそうだ。日々の食卓を支える主食だからこそ、生産現場への理解を深めることが今後ますます大切になる。価格の動向とあわせて、生産基盤そのものの持続可能性にも目を向けていきたい。

元記事はこちら:豊作なのにコメ価格を吊り上げ続ける“真犯人”は明らか(プレジデントオンライン)

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