富士山で2026年夏、遭難による救助要請が急増している。静岡県側では、開山以降(7月1日〜8月24日)の遭難件数が前年同時期の2倍に上っているという。2025年の入山規制導入によって一時は遭難件数が減少していただけに、今夏の一転した増加ぶりが注目されている。
現地取材では、要因の一つとして「シャリバテ」という言葉が挙げられている。この記事ではシャリバテとは何かを解説しつつ、今夏の富士山で何が起きているのかを整理する。元記事はこちら。
富士山で何が起きているのか
富士山では2025年から、遭難事故を防ぐための入山規制が導入されている。1人4000円の入山料に加え、ルールやマナーに関する事前学習が義務化され、山小屋の予約がない場合は午後2時から翌午前3時まで入山できない仕組みも設けられた。夜間に一気に山頂を目指す「弾丸登山」を防ぐ狙いだ。
こうした対策により、弾丸登山や無謀な登山は以前と比べて減っているとされる。にもかかわらず、2026年は遭難救助の件数が前年の2倍に増加。特に目立っているのが、登り中ではなく下山中の事故だという。
シャリバテとは何か
シャリバテとは、登山中に体内の糖質(エネルギー)が不足し、力が入らない、ふらつく、頭が働かなくなるといった症状が出る状態を指す登山用語だ。「シャリ」はご飯のことで、エネルギー源となる糖質が「バテる」ほど不足することからこの名がついたとされる。
富士山頂に常駐する写真家は、今夏の登山者について「シャリバテと言って、糖質不足になっている人も結構いる。登りでエネルギーを使い切ってしまい、下る時のエネルギーが残っていない」と指摘している。登りで体力を使い切ってしまい、下山時にエネルギー切れを起こすというパターンが、今夏の事故増加の一因とみられている。
ハンガーノックとの関係
シャリバテは、登山以外の分野では「ハンガーノック」と呼ばれることもある。もともとは自転車競技などの持久系スポーツで使われてきた言葉で、医学的には血糖値が急激に低下する「低血糖」の状態を指す点で、シャリバテと同じ現象を表している。
症状としては、強い脱力感を伴う疲労感、ふらつき、足がつる、立ちくらみ、頭痛、手足のしびれなどが挙げられる。標高が高く気温や酸素濃度も変化する富士山のような環境では、こうした症状が通常以上に深刻化しやすいと考えられる。
なぜ今夏シャリバテが目立つのか
富士山頂で活動する写真家は、今夏シャリバテの登山者が目立つ理由について「今年は本当に天気が良くて先が見える。歩いている時に前へ進む登山道が見えると、もう少し進んでみようとか、まだいけるかなと思ってしまう」と分析している。
好天が続いたことで視界が開け、山頂までの道のりが見通せてしまう。それが「もう少しなら大丈夫」という判断につながり、エネルギー配分を誤ったまま行動を続けてしまう登山者が増えた可能性があるという見立てだ。
シャリバテの予防と対策
シャリバテを防ぐ最大のポイントは、空腹を感じる前に、こまめにエネルギーを補給することだとされる。1時間から1時間半程度の間隔で、行動食を少しずつ口にすることが基本の予防策とされる。
ブドウ糖タブレットや飴、氷砂糖のように、すぐに吸収されやすい糖分を携行しておくことも有効とされる。もしシャリバテの症状が出てしまった場合も、他の傷病がなければ、休憩をとりながら糖分を補給することで多くは回復するとされている。
依然として残る軽装登山の課題
入山規制によって減少したとはいえ、依然として遭難の要因になっているのが軽装登山だという。登山道の入口では、服装が明らかに不十分な登山者に対し、スタッフが呼び止めて指導する場面も見られる。
富士山は標高3776メートルと国内最高峰であり、山頂付近は真夏でも気温が大きく下がる。天候の急変も珍しくなく、軽装での登山は体力の消耗を早め、シャリバテのようなエネルギー切れのリスクも高めることになる。
台風接近時の登山を巡る課題
今夏は、台風の接近が予報されている状況でも山頂を目指す登山者がいたことも指摘されている。開山期間中に何日も前から計画を立てて訪れる登山者にとっては、予定を変更しづらい事情もあるとみられるが、荒天時の無理な登山はリスクを一段と高める行為だ。
入山規制による事前学習の義務化が進んだ一方で、天候リスクへの判断は最終的に登山者自身に委ねられている部分が大きい。今後、荒天時の入山をどう抑制していくかも課題として残されている。
富士山入山規制の1年間の効果
2025年に導入された入山規制は、弾丸登山の抑制という面では一定の効果を上げてきたとされる。事前学習の義務化によって、登山ルールやリスクについて知らないまま入山する人が減ったことも、無謀な行動の抑制につながっているとみられる。
一方で今回明らかになったのは、規制によって防げるリスクと、防ぎきれないリスクがあるという現実だ。入山者の装備や事前準備をある程度は制御できても、登山中の体力配分や天候判断といった要素は、最終的には個々の登山者の判断に委ねられる部分が大きい。
下山中の事故が目立つ理由
一般に登山事故というと、急な登りでの転倒や滑落がイメージされやすいが、今夏の富士山では下山中の事故が目立っているという特徴がある。消防に寄せられた通報でも「下山の途中、50代の母親が体調不良になった」「下山の途中、同行者が疲れて転んで動けない」といった内容が報告されている。
登山では、山頂に到達した時点で気持ちが緩み、集中力や注意力が下がりやすいことも知られている。加えてシャリバテの状態にあると、下山という単純な動作であっても、足がもつれる、判断力が落ちるといった形で事故につながりやすくなる。
今後の登山シーズンに向けて
富士山の開山期間は9月10日までとなっており、残りわずかな期間もなお多くの登山者が訪れると見込まれる。今夏明らかになった「下山中の事故」「シャリバテ」といった新たな課題を踏まえ、今後どのような追加対策が検討されるのか注目される。
登山者側としても、天候だけでなく自身の体力配分やエネルギー補給の計画を事前に立てておくことが、こうした事故を防ぐ上で重要になりそうだ。


コメント